「今日も、身体が重い。でも、休むわけにはいかない。」
そんな思いで、毎日をギリギリのところで踏ん張っているお母さんは多いのではないでしょうか。
かつて32歳だった私も、その一人でした。二人の娘を抱え、仕事と家事に追われるシングルマザー。睡眠時間を削り、食事もそこそこに駆け抜ける日々。お風呂でつい意識を失い、娘に揺り起こされては「大丈夫よ」と笑ってごまかす。そんな「無理」が当たり前になっていた頃、私の胃は静かに、けれど確実に悲鳴を上げていました。
精密検査で見せられたのは、胃の中に広がる「3つのクレーター」。 そして医師から告げられたのは、「このままでは死にますよ」という、あまりにも冷酷で切実な現実でした。
この記事では、仕事も環境も変えられない絶望の中で、私がどうやって10年に及ぶ胃潰瘍との戦いに終止符を打ったのか、そして当時の私を支えてくれた「名医の言葉」と「娘たちの愛」についてお話しします。
今、もしあなたが、心や体に「痛み」を抱えながらも走り続けているのなら。 私の体験が、あなたが立ち止まり、自分を大切にするための小さなきっかけになれば幸いです。
70歳になった今だからこそ伝えたい、絶望から完治までの16年間の全記録を綴ります。
32歳、限界を越えていたシングルマザーの日常
32歳の夏。私は11歳と8歳の娘を育てるシングルマザーとして、必死に毎日を駆け抜けていました。 仕事の合間に家に戻って食事の支度をし、また職場へ向かう。睡眠時間を削るのが当たり前の生活。
疲れはピークに達していました。たまに娘たちと一緒にお風呂に入っても、湯船に浸かった瞬間に意識が飛んでしまうのです。
「ママ!ママ!起きて!」
娘の声と、体を揺さぶる衝撃でハッと目が覚める。湯船に沈みかけていた私を見て、娘たちは不安そうな顔をしていました。そんな無理な生活が1年ほど続いた頃、体に異変が起きました。
胃のあたりがチクチクと痛み、特に空腹時はキリキリとした激痛に変わる。ひどい胸焼けも加わり、私はようやく病院の門を叩きました。
忘れられない「名医」との出会い
そこで出会ったのは、今でもはっきりと覚えている、とても人間味あふれる先生でした。
採血の際、血管が細い私の腕に看護師さんが苦戦し、3回目でようやく成功したときのことです。先生は看護師さんに、静かに、でも力強くこう問いかけました。
「我々の一番大事な仕事は何だと思う?」 「……何ですか?」 「患者さんの痛みを和らげてあげることだ。精神的にも、技術的にもだよ。それが痛みを与えてどうする?もっと腕を上げなさい」
その言葉を聞いて、なんて素敵な先生だろうと心から信頼を寄せました。先生の判断で、検査はバリウムではなく胃カメラで行うことになりました。
娘たちが見た、母のお腹の中の「クレーター」
検査当日、先生は一緒に来ていた娘たちを検査室に呼び入れました。 口からカメラを通し、横たわる私の横にあるモニターを、先生は娘たちに見せたのです。
「ほら見てごらん。これはお母さんのお腹の中だよ。この丸い月のクレーターみたいなのが病気なんだ。それが3つもあるんだよ」
モニターには、生々しい胃の壁が映し出されていました。 「この黒いのは血で、お母さんのお腹の中で流れ出ているんだよ」
先生の言葉に、娘たちは顔面蒼白になり「えッ!」と声を上げました。 「早く治るように、お母さんを助けてあげようね」
先生に言われ、娘たちは涙を浮かべそうな顔で大きく頷き、「ママ……大丈夫?」と私を気遣ってくれました。10年にわたる胃潰瘍との長い戦いのゴングが鳴った瞬間でした。
「死にますよ」と告げられた衝撃
先生の診断は厳しいものでした。 「今すぐ今の仕事はやめなさい。環境を変えないとダメだ。血液検査の結果も最悪です。分かりやすく言うと『血液の栄養失調』。クレーターが一つでも破れたら、あなたは普通の人の半分の出血で死にますよ」
けれど、仕事はやめられません。資格もない私が見つけた、家族3人が食べていくための大切な仕事。 私は大量の薬を抱え、今の環境のまま戦う道を選びました。
幸い、母子家庭の医療費助成制度があったおかげで、経済的には救われました。そして何より、あの日から娘たちが家事を手伝い、私の体を一番に心配してくれるようになったことが大きな支えでした。
10年越しの完治、そして70歳の今
それからの16年間、4年に一度は入院を繰り返しました。 娘に「まるでオリンピックやなぁ」と笑われるほどでしたが、ようやく光が見えたのは、ピロリ菌の除菌治療が保険適用になったからです。治療を受けたことで長年の胃潰瘍が完治したのです。
70歳になった今でも、健康診断で必ず胃カメラのオプションを追加します。 モニターを見て「異常なし」と確認するたびに、あの日の先生の言葉と、顔面蒼白で私を心配してくれた娘たちの姿を思い出します。
あの苦しい日々があったからこそ、今こうして健康でいられる幸せを噛みしめることができる。胃カメラの画像は、私にとっての「健康の証」なのです。
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