余命宣告から1年。在宅診療を選んだ夫が、最期まで自分らしく生き抜いた記録

「長くて1年でしょう」。昨年4月に告げられた突然の余命宣告。それから今年4月に主人が旅立つまでの1年間、私たちは在宅診療という道を選びました。

咽頭がんと闘いながらも、主人は最後まで「主人のまま」で在宅生活を謳歌しました。夜中の散歩、こだわりの掃除、そしてお医者様も呆れるほどのタバコ……。

側で見守る家族としてはハラハラすることばかりでしたが、今振り返ると「したいようにさせてよかった」と心から思えます。今回は、そんな自由人で愛すべき主人との、可笑しくて少し切ない闘病中のエピソードをお届けします。

「自由」を貫いた在宅診療

今年4月、主人は70歳で静かに旅立ちました。1年前の余命宣告を受けてから、私たちは住み慣れた自宅での生活を選びました。

主人の性格を考えると、病院の規則に縛られるより、自宅で「したいようにする」のが一番だと思ったからです。

もちろん、家族としては気が気でない場面もたくさんありました。

執念(?)のシンク磨き

ある夜のことです。「吐き気がするから、気分転換に散歩に行く」と言い出した主人。

つい先日、庭で転んで顔を怪我し、眼鏡を修理に出したばかりだったので、私は必死に止めました。咽頭がんの影響で右腕が動かない主人は、転ぶと咄嗟に手が出ず、顔から落ちてしまうのです。

「大丈夫や」と言い張って出かけたものの、わずか10秒で「寒い!風邪ひく」と戻ってきたときは、思わず笑ってしまいました。

その後、睡眠薬を飲んでも「体がだるくて痛い、寝れん!」と落ち着かない様子。

すると突然、主人は台所のシンクを磨き始めたのです。 夜中に漂う研磨剤の強い匂い……。でも、仕上がりは驚くほどピッカピカ。気が紛れるのだそうです。「ありがとう」と言うと、主人は少し満足そうでした。

あのピカピカのシンクは、主人が「今を生きている」証だったのかもしれません。

「タバコは美味しい」お医者様との不思議な信頼関係

訪問診療の先生とのやり取りも、主人らしいものでした。

「先生、痰が絡むのが酷くて……夜寝てる時、死ぬかと思った」と訴える主人に、先生は優しく、けれどハッキリと仰いました。

「タバコをやめたら減るよ。タバコは麻薬と同じやからね」 「やめたらストレスたまるわ!」

そんな押し問答の末、先生は「ま、好きにしたらいいよ。好きな時に好きな物を好きなだけ食べてもいいからね」と笑って認めてくれました。

抗がん剤の後遺症による味覚障害で、何を食べても美味しいと思えなくなっていた主人。バナナが木材を食べてるようだと言ってました。

そんな彼が唯一「美味しい!」と感じられたのが、皮肉にも身体に有害なはずのタバコでした。

「じゃ、タバコ吸えるうちは元気ってことやな」

先生のその言葉通り、主人は最期まで自分の「好き」を手放しませんでした。

「したいようにさせた」から、 全く悔いのないお別れ

側で見ていて「危ないな」「体に悪いのに」と思うことは何度もありました。でも、主人のやりたいことを奪わずに過ごしたこの1年間。主人はきっと、自分の人生を自分の足で歩ききったのだと思います。

そう思うと、私の中に後悔はありません。 台所のシンクを見るたびに、あの夜の研磨剤の匂いと、主人の少し強情で、でも一生懸命な姿を思い出します。

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