【在宅看取り】余命1年を駆け抜けた夫の夢は「ミノムシ」〜42年海で働いた彼が望んだ最後の時間〜

今年4月、主人が70歳で旅立ちました。

昨年春に受けた「長くて1年でしょう」という突然の余命宣告。そこからの1年間、私たちは「在宅診療」という道を選び、主人のしたいように、自由に過ごしてもらうことに決めました。

今回は、そんな主人が闘病中に語った、ちょっぴりユニークで切ない「ある夢」のお話です。船乗りとして過酷な海で戦い続けた主人が、人生の最後に望んだ「ミノムシ」という生き方。 そして、激しい痛みの中でも自分を貫き通した、可笑しくも愛おしい闘病中のエピソードをお届けします。

今、大切な人の看取りや在宅医療で悩んでいる方の心が、少しでも軽くなりますように。

42年間、過酷な海で戦い続けた主人の「小さな夢」

主人は人生の大半を「船乗り」として過ごしました。その期間、実に42年。

船の上というのは、乗船してしまえば24時間休みなんてありません。 夏の蒸し暑さが容赦なく体力を奪う名古屋の港で、大型フェリーに黙々と車を積み込んだかと思えば、冬は氷点下の凍える苫小牧の港で車の積み下ろし。 航行中も気が休まる瞬間はなく、船の舵取りから船内の点検、修理まで……。本当に、本当によく頑張ったと思います。

だからこそ、定年退職を前に主人が描いていた夢は、どこまでもシンプルでした。

「時間に縛られることのない、ゆっくりした時間を過ごしたい」

寒いのが大の苦手だった主人の理想の姿。それが「ミノムシ」でした。 寝袋にすっぽりとくるまって、大好きなコタツでぬくぬくと寝る。ただそれだけ。 「な~んもせんと、ただ寝たい」それが、過酷な現場を生き抜いた男の、ささやかで最大の憧れだったのです。

訪問診療の先生が教えてくれた「山椒魚になった患者さん」の話

在宅診療が始まってから、主人は訪問診療の先生に嬉しそうにその夢を語っていました。

「先生。ワシの夢は昔からミノムシやねん。な〜んもせんと寝るねん」

そんな主人の言葉を、先生は否定することなく、優しい笑顔で受け止めてくれました。

「ミノムシ、いいですねぇ。実はね、ある患者さんは『山椒魚になりたい』と言ってましてね。でも、もう末期癌で動けない状態だったんです。だから私は『もう山椒魚になってますよ』とお伝えしたんです。そしたらその患者さん、『そうやな。先生、ワシの夢はもう叶ってるなぁ』って、嬉しそうにしてましたよ」

先生のその言葉を聞いたとき、主人の心にもじんわりと何かが届いたようでした。ベッドの上で何もできずに過ごす時間は、決して「かわいそうな時間」ではなく、これまでの大仕事を終えて、ようやく「夢のミノムシになれた時間」だったのかもしれません。

「あほんだら!」激痛を我慢し続けた、船乗りのプライド

そんな穏やかな時間ばかりではありませんでした。ある日、主人の左胸に激しい痛みが走り出したのです。

「痛い!ここが痛い!痛い!」

苦しそうな主人を見て、慌てて声をかけました。聞けば、もう2日前から痛かったと言うのです。

「先生呼ぼうか?」 「いやまだいい!薬飲んだ」

しかし、それから1時間後。 「う〜〜痛い!痛い!」とさらに苦しみ出します。

「先生呼ぼうか?」 「まだいいって言うたやんか!あほんだら!!」 「あ、そう……」

心配して言っているのに、まさかの「あほんだら!」(笑)。 なんでそんなにまで我慢するんかなぁ?と、その時は少し呆れてしまいました。

後になって、訪問診療の先生にこっそり聞いてみたんです。 「先生、あの時の痛みって、どれくらいのものだったんですか?」

先生の口から返ってきたのは、衝撃の言葉でした。

「骨折した時の痛みと同じくらいです」

それを聞いた瞬間、言葉を失いました。骨折の痛みを2日も、しかも自宅でじっと我慢していたなんて……。 「えっ、よう我慢できたなぁ……」と、呆れるのを通り越して、ある意味すごいわと感動してしまいました。やっぱり、過酷な海を42年間生き抜いてきた男の我慢強さは桁違いです。でもね、心の中で主人にちょっと突っ込みました。
「こんなに痛かったら、さすがにミノムシはできんなぁ」って。

まとめ:自由にしてあげられたから、悔いは一切ありません

今年4月、主人は70歳で旅立ちました。 余命宣告されてからの1年間。痛みに耐える主人の姿を見るのは辛い瞬間もありましたが、在宅診療を選び、主人のしたいように、わがままに自由に暮らしてもらうことができました。

理不尽に怒られたことも、今となっては愛おしい思い出です。

「したいようにさせられた」 その一点において、私には全く悔いがありません。

42年間、本当にお疲れ様。 これからは天国で痛みのないコタツに入って、思う存分、大好きな「ミノムシ」になってゆっくり眠ってね。

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