最近、認知症をテーマにした映画を見ました。
画面の中で描かれる世界は、胸の奥で小さな警鐘が鳴るような気がしてなりません。
ふと蘇ったのは、8年前、この街に引っ越してきたばかりの頃の記憶です。
道を覚えようと、毎日違うコースを散歩していた私が出会った、ある女性のこと。そして、バスの中で繰り返された、果てしない問いかけ。
あの時、私は正しく接することができていたのでしょうか。
70歳になった今、あの時の彼女たちの姿を思い返すと、当時の私には見えなかった景色が、今の私には少しだけ見えてくる気がします。

記憶が消えるということ、私が忘れたいこと
8年前、この街に来たばかりの私は、馴染もうと毎日違う道を選んで歩くのが日課でした。そんなある日、一人の女性に出会いました。
60代くらいでしょうか、どこか不安げな表情で、「あの……〇〇町に行くのはこの道であってますか?」と私に尋ねてきました。
「ごめんなさい、引っ越してきたばかりで分からなくて」
そう伝えると、彼女は少し残念そうに、でも素直に「あ〜そうですか。すみません」と言って去っていきました。
しかし、2日後。同じ場所で、また彼女に会ったのです。 「あの……〇〇町に行くのはこの道であってますか?」
私のことを覚えていないのだと気づいた瞬間、背筋が少し凍るような思いがしました。
よく見ると、彼女の首から住所や名前、電話番号が書かれたものがぶら下がっていました。
それは紛れもなく、誰かの助けを求めるためのしるし。彼女はそのまま歩いていきましたが、私は立ち尽くしてしまいました。
どう対処するのが正解だったのか、今でも時々考えてしまいます。
バス停で繰り返される「同じ問い」
もう一つの記憶は、ある日のバスの中でのことです。
乗車してきた年配の女性が、運転手さんに「イオンモールに行きますか?」と聞きました。運転手さんは「はい、行きますよ」と答えます。
バスが発車して、信号待ちのときに、立って彼女は同じことを聞きます。 「イオンモールに行きますか?」 「行きますよ。発車するので座ってください」
運転手さんの優しい声は、彼女の耳にはもう届いていないのかもしれません。
彼女は座ることも忘れて、不安そうに立っていました。
私は見かねて隣に行き、「イオンモールに行きますから大丈夫ですよ。危ないから座りましょうね」と声をかけ、椅子に座ってもらいました。
その時、ふと思ったのです。 「あぁ、これは明日の私の姿かもしれない」と。
70歳、今だから思うこと
認知症は、誰にとっても遠いようで近い未来にある道です。いつか大切な記憶の糸がほつれていく日が来るかもしれません。
あの時出会った女性たちは、今どうしているでしょうか。
もし、かつての彼女たちに、今もう一度会ったら?
私はただ通り過ぎるのではなく、彼女たちの不安にそっと触れて、安心してもらえるような言葉をかけられるだろうか。
そして、私が認知症になったら?怖いです。
70歳という節目を迎え、少しずつ体力は衰え、忘れることも増えてきました。
記憶は消えていくかもしれないけれど、誰かと交わした温かさや、安心感だけは、最後まで心に残るものでありますように。
そう願いながら、今日も私は、新しい道を一歩ずつ歩いています。
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